建設業法の改正により、建設業を営む企業は、2020年10月からは社会保険への加入が実質義務化されました。もし必要な社会保険に加入していない場合は、建設業許可を取得することができません。
その中でも労災保険については、原則として労働者は全員加入する必要があります。建設業においては、工事を1つの事業として捉えることから、工事開始の際に工事現場の労災保険の手続きを行います。
建設業における2つの労災保険
建設業における労災保険は、一般とは異なり、「工事現場の労災保険」と「工事現場以外の労災保険」の2種類があります。
工事現場の労災保険
元請企業(施主と直接契約し工事を請け負っている企業)には、建設現場での労災保険に加入する義務があります。それゆえ、労災保険の加入や保険料の納付等の手続きは、元請企業だけでなく下請企業の労働者についても、元請企業が責任をもって対応する必要があります。
ただし、元請企業は関与するのは現場労災のみです。元請企業は工事開始の際に労災保険の手続きを行い、建設業の事業が終了した際には、労災保険を解消する必要があります。また、事業期間が延期または短縮した際は、変更があった日から10日以内に、所轄の労働基準監督署に対して「名称・所在地等変更届」を提出しなければなりません。
なお、この労災保険は工事現場での事故のほか、通勤時の災害にも適用されます。
工事現場以外の労災保険
建設業を営む企業の従業員は、全員が建設現場で作業しているわけではありません。現場以外の場所で働く労働者(下請企業の事務所内で働く事務員や営業職など)については、工事現場の労災保険の適用外となってしまいます。このような労働者のために、工事現場以外の労災保険に加入する必要があります。
この労災保険については、元請や下請に関係なく、それぞれの企業で個別に労災保険の手続きを行います。
労災保険の特別加入制度
労災保険の加入対象者は労働者であり、事業主(社長や役員)や一人親方は労働者に該当しないため、本来は労災保険に加入することができません。
しかしながら、建設業においては事業主も現場に入るケースが多く、一人親方も工事現場で働くため、労働者と同様にケガのリスクを伴います。このように労働者に準じて保護すべきと認められた者は、特別に労災保険への加入が認められています。この制度を特別加入制度と言います。
中小事業主等の労災特別加入
建設業において、1人以上300人以下の労働者を常時使用する事業主や、労働者以外で事業主の事業に従事する人(事業主の家族や役員など)を、中小事業主といいます。
中小事業主は、以下の2つの要件を満たし、所轄の労働局長の承認を受けることで、労災保険に特別加入できます。
中小事業主等の労災特別加入の要件
- 雇用する労働者の保険関係が成立している
- 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託している
ただし、補償の対象となるのは建設現場での事故など、労働者と同様の業務を行っていた場合に限られます。経営者としての業務中の事故は対象外です。
一人親方の労災特別加入
一人親方については、常時使用する労働者がいない場合に特別加入することができます。また労働者を使用した場合でも、その労働者の使用期間の合計が年間100日間未満の場合には、特別加入が認められています。
一人親方の特別加入手続きは、所轄の労働局の承認を受けた特別加入団体が行います。特別加入団体は事業主、一人親方は労働者とみなして労災保険が適用される、という仕組みです。