建設業界では、これまで社会保険に加入していない企業も少なくありませんでした。特に下請企業で社会保険未加入のケースが多数ありましたが、社会保険に未加入であると、保険料の負担がない分、入札への参加の際に価格を抑えることが可能となり、入札競争において不公平が生じてしまうという問題がありました。
そもそも、社会保険に未加入であると、医療や年金など、公的な社会保険を受けることができません。これにより、大切な技術力をもつ労働者の処遇が低下し、建設業の就労環境も悪化することから、若い世代など新たな人材を確保が困難となる一因ともいわれています。新たな入職者がいなければ、技術や技能の承継もできず、状況は悪化していく一方です。
このような背景を受け、建設業の持続的な人材確保かつ健全な競争環境を構築すべく、建設業法が改正され、2020年10月より、建設会社の社会保険加入が義務化されることになりました。
社会保険未加入の業者が多いのはなぜ?
建設現場では、工事の発注者から直接施工を請け負う元請の企業だけなく、一次下請、二次下請と、複数の下請企業が工事に携わります。それゆえ、労働者の社会保険加入状況について管理しきれないという実情があります。
社会保険に加入すれば、当然、保険料の負担がかかります。末端下請の小規模な企業や、個人事業主、いわゆる一人親方といわれる方は、この金銭的な負担を避けたいという思いや、そもそも保険に関する知識が乏しいというケースもあり、社会保険に加入していないことが多いと考えられます。
政府の社会保険加入推進の取り組み
建設業界の社会保険未加入については、以前より問題視されていました。
2015年4月からは、国土交通省の直轄工事に関して、元請企業のみならず下請企業についても社会保険に加入しなければならず、未加入が発覚した場合は、国土交通省の建設業担当部局に通報されることになりました。
2015年8月には、入札工事において、元請企業が社会保険未加入の企業と下請契約を結ぶことを禁止しました。
2017年以降は、社会保険未加入の企業は下請に選定しないことと、特段の理由がない限り、社会保険への加入が確認できない作業員は現場への入場を認めないようにと、国土交通省が明確に要請しています。
そして2020年10月からは建設業の社会保険加入が義務化され、社会保険に未加入の企業は新規の建設業許可が取れなくなりました。また、すでに建設業許可がある場合でも、社会保険に未加入の場合は、年一回の許可更新の際に許可が取り消されてしまいます。
社会保険未加入の場合は罰則も
これまでお伝えしたとおり、社会保険に未加入だと工事を受注することは困難となりましたが、リスクはそれだけではありません。
社会保険事務所の加入状況調査によって未加入が発覚すると、最大で2年間の社会保険料を追徴される可能性があります。さらに保険料逃れが悪質だと判断された場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金を受けることもあります。
また先ほどお伝えしたように、未加入が発覚すると建設業許可も取り消されてしまいますし、今後さらに厳罰化される可能性もあります。保険料支払いの負担よりも、社会保険未加入によるデメリットの方が大きいため、やはり社会保険にはきちんと加入しておくべきといえます。